最近、区分所有ビル・オフィスが話題となっています。区分所有とは、建物一棟全体を所有するのではなく、各室(フロアー)を所有し、廊下やエレベーターなどの「共用部分」は各室(フロアー)を所有する方々で「共有」する、所有方式のことです。今までは分譲マンションでこの、「区分所有」が用いられてきましたが、企業が自社使用や投資のために不動産保有する形態としてここ数年脚光を浴びて来ました。
事務所ビル、商業ビルを区分所有で保有するメリットは多くあります。
事業用のオフィス・ビルを区分所有することには次のようなメリットがあります。
1.限られた資金で1フロア面積の大きなオフィスを手に入れることが出来る。
①少ない投下資本でよりグレードの高いビルを購入できる。
②フロア当たり面積が大きいほど、高い賃料で優良企業に貸せる。
③フロア当たり面積が大きいほど、レイアウトが自由で使い勝手が良い。
④同じ金額で購入するなら、一棟ビルよりも立地の良いビルが購入できる。
2.共有不動産と比較して譲渡性に優れる・流動性が高い。
1棟のビルを複数の相続人で相続した場合、共有としては各自が単独で譲渡するのは
難しくなる。
3.共用部分の管理や大規模修繕は管理組合を組成して行うことになり、直接の事務負担
がない。
一棟ビルを共有していては、経費の清算事務が発生し大規模修繕工事も事実上全員
の合意がなければ実施出来ない。また修繕の都度、支出が発生する。
4.資産形成に寄与。他社に賃貸し収益資産とすることも出来る。
このように、企業の(もちろん個人としても)保有資産として大変優れたメリットがあるのです。
では、デメリットはどうでしょう? リスクは?
不動産なのですから、当然価格の下落リスクはあります。でもそれは区分所有ビルに限らず不動産全般に言えること。好立地のグレードの高いビルであれば、不動産相場の下落時にも下げ幅は限定的であり、逆に上昇時は早い段階で価格上昇が見込めるでしょう。同じ価格ならば、交通の便のそれほど良くない一棟ビルよりは、立地の良い区分所有ビルの一室を購入した方が価格下落のリスクは少ないと思われます。(これは居住用のマンションでも同じことですね。)
ビルやオフィスを区分所有することのデメリット、リスク、それは区分所有建物であるが故の管理組合の運営方法にあります。
「管理会社」と「管理者」、字面は大変にていますが、中身、役割は正反対です。
管理会社は区分所有ビル・オフィスの清掃や各種保守点検、そして本来所有者が行うべき金銭(管理費修繕積立金等)の収納や経費の支払い、金銭の保管(預金口座の管理、出し入れ)、建物修繕のアドバイス等の業務を、管理組合から受託して行います。
これに対して、区分所有法に定める管理者は「その職務に関し、区分所有者を代理する。」(区分所有法第26条第2項)となっており、区分所有者の団体である管理組合を代表し、管理会社に対し業務を発注する立場です。
管理会社が管理者に就任すると言うことは、発注者と請負者、委任者と受任者が同じ者になるということであり、民法第108条(自己契約及び双方代理)で本来は(事前の承諾がない限り)禁止されている行為なのです。
なぜ禁止されているのか? 管理者は管理組合の代表なのですから、管理組合の利益を優先して行動しなければなりません。管理仕様を見直して、組合の無駄な支出、不要な支出を削減したり、工事の発注に際してはより低廉な価格を提示する業者を探したりして、管理組合の利益を図らなければなりません。しかし、同時に管理会社である場合は、管理仕様の見直しは自らの売上利益を減少させる行為であり、管理会社に工事部門があるにも係わらず、他の会社に工事をさせるのは収益機会を逃すことになります。
管理会社が管理者となっていて、自らの売上利益を減少させ、収益機会を逃す行為が適切にできるでしょうか?
発注者と受注者が同じでどうして適正な価格で発注できるというのでしょう?実施した業務や工事に瑕疵がある場合、受注者である管理会社と発注者(管理組合)を代表する管理者が同一であれば、どうして適切に損害賠償請求が出来るというのでしょうか? 瑕疵を明らかにするどころか、隠してしまうのではと考えられませんか?
管理会社を管理者にしてしまうと適正な管理組合運営業務が出来なくなってしまうのがお解りいただけると思います。
管理組合の運営を、上記の例のように管理者を選任せずに「理事会」方式とした場合、区分所有者の中から代表(理事3名、監事1名の計4名)を総会で選びさらに理事3名の中から理事長を選任することになります。なお理事長は区分所有法に定める「管理者」も兼ねる管理規約(管理組合のルールを定めたもの)となっていることがほとんどです。
さて、ここからが大切なところですが、理事長は管理組合を代表するが故に利益相反行為は禁止されます。管理組合全体の利益に貢献する義務を負い、自社の利益を優先する行為は出来なくなるのです。例えば清掃会社であれば自社に清掃させて清掃料を管理組合から頂いたり、文房具店であれば備品消耗品等を管理組合に販売したりすることは事前に総会で承認を得て置かなければ出来ないのです。(民法第108条参照)
自らの住宅として保有するマンションと違い、ビル、オフィスは企業としての経営活動のために利用されるものです。そうでありながら自社の利益よりも管理組合全体の利益を優先させなければならないジレンマを抱えるわけです。
また、理事長や監事には、管理組合からの委任に基づく業務であるものとして善管注意義務(民法644条参照)が課せられることになります。具体的に申し上げますと、管理組合として各区分所有者から集めた管理費・修繕積立金等資産の保管にあたり、適切に管理せず毀損した場合(第三者の横領等)、損害賠償義務を負うことが考えられます。
さらには、理事長(=管理者)となれば管理費等の滞納者への訴訟をはじめとする各種の訴訟において当事者(原告や被告)となることとなります。(区分所有法第26条第4項参照)
実務上は管理会社や弁護士が行うこととはいえ、自社の直接の行為や自社の事業活動とは関係のない訴訟の当事者になるのは大変な負担です。投資目的の保有であればなおのこと、訴訟の当事者になることは目的外の負担ですので避けるべきこととなります。
分譲マンションでは、理事長が行った管理組合業務としての行為(滞納管理費等の督促や組合ルール順守の勧告等)に対し、一区分所有者が自己に対する名誉棄損云々を主張し訴訟を提起することは実際に見られることです。
これらのように、「理事会」方式を採用し組合運営にあたる場合、「利益相反となるリスク」や「善管注意義務違反を問われるリスク」「訴訟当事者となるリスク」を負うわけです。
公平・公正に判断し運営できる第三者の専門家に管理者・理事長に就任してもらうことです。
平成28年3月14日に国土交通省より発表された改正マンション標準管理規約では、管理組合運営に第三者専門家を活用することに言及されています。
区分所有ビル・オフィスこそ、管理組合運営を担う管理者には、利益相反・自己契約となる管理会社ではなく、公平・公正に判断し運営できる第三者の専門家が適切です。
理事会を構成する場合であっても、理事長だけは外部の専門家に就任してもらうことです。
そしてそれは次のメリットをもたらします。
1、役員負担からの解放
理事会を廃し、第三者による管理者管理を導入することで、理事会役員の負担が無くなります。理事会を残す場合でも理事長を第三者専門家に就任させることにより、4名の役員負担が3名で済むようになります。
2、プロによる管理会社の監督
区分所有建物管理の知識とノウハウを持つ専門家が、管理業務の委託先である管理会社を監督することにより、管理業務の適正化、質の向上と、管理委託費の適正化が図られます。
従来は、管理会社と区分所有者との間に管理組合運営や区分所有建物管理の知識やノウハウ、経験に差があり、区分所有者の団体である管理組合側は発注者側でありながら十分な交渉が出来なかった場合が多かったのですが、実務経験豊富な専門家が管理者に就任して管理会社と交渉することになればこれも解決します。
3、これらによる資産価値の向上
管理者を第三者専門家にすることにより、自己契約・双方代理・利益相反行為といった法的問題点・契約の不安定さがなくなり、また、管理会社や工事会社との契約締結の適正化が図られれば、結果的に管理経費の適正化・削減が図られ、所有する区分建物の資産価値の向上がもたらされます。
区分所有ビル・オフィスの管理組合運営に携わる「管理者」として適切な専門家は?
ビル管理・分譲マンションに代表される区分所有建物管理の実務経験が豊富で、単なる、
マンション管理士レベルにとどまらない法律知識と職業倫理を持っていることが必要です。
当事務所では、司法書士、行政書士、マンション管理士、ビル管理士(建築物環境衛生管理技術者)である代表が、皆様のビル・オフィスの適正運営をお手伝いします。
無料のメール相談はこちら